【機械設計】厳選! 金属素材の選定について(その①)
こんにちは、ボビーです。
更新の間隔が開いてすみません。
今回は機械設計ネタです。
業界によって基本的に使われる素材は色々ですが、私の経験からの独断と偏見による素材の選定基準についてお伝えします。
(あくまで個人の感想です。笑)
今回は鉄系素材です。
(注1)各素材の物性値や硬度について
これらの数値は私がこれまで、
・JIS規格、各金属業界のハンドブックで調べたもの
・鋼材メーカーに確認したもの
・焼入れ業者と打ち合わせして、焼入れ・焼戻し後の部品を社内で硬度測定したデータ
をまとめた自分の設計資料からの抜粋になります。
あくまで素材選定の参考にして下さい。
設計時に確実な数値データが必要な場合、
実際に皆様が取引されている所に確認下さい。
(注2)焼入れ・焼戻しの硬度の幅について
一般的に、焼戻し温度と時間を変更することで、硬度を変化させることが出来ます。
なお、硬度を上げれば引張強さと耐力は低くなります。(=もろくなる)
硬度を下げれば引張強さと耐力は高くなります。(=粘る)
どちらに持って行きたいかを設計者が考えて、
図面指示をするか、事前に焼入業者と打ち合わせをして決めてください。
(1) SS400(一般構造用鋼)
・引張強さ 400~510N/mm2
・降伏点or耐力 235N/mm2以上(板厚40mm以下)
・硬度 130Hv
何はともあれ基本の素材はコレ。
一般的な金属である鉄の中でも1番のメジャー。
世の中の大半のものはこれで出来ていると言ったら、、、過言でした。スミマセン。
素材形状も丸鋼、平鋼、角鋼、アングル鋼、パイプ、角パイプ、平板などと色々あり、溶接も普通にできるので、組み合わせるとどんな形状でも作ることができます。
これに限らず、鉄は基本的に錆びるので何かしらの表面処理や塗装が必要です。
(2) SPCC(冷間圧延鋼板)
・引張強さ 270N/mm2以上(規定なし。参考値)
・降伏点or耐力 規格無し
・硬度 115Hv以下(標準調質)
板金プレス加工の場合のt3.2以下の薄板ならコレ。
SS400より強度が4割近く弱いので注意!
強度が必要な所には使いません。
(3) S45C (炭素鋼)
・引張強さ 570N/mm2以上/690N/mm2以上
(焼ならし/焼入れ・焼戻し)
・降伏点or耐力 345N/mm2以上/490N/mm2以上
(焼ならし/焼入れ・焼戻し)
・硬度 167~229Hv/201~269Hv
SS400では、強度が足りない箇所に使われます。
鉄の準主役です。
素材価格もSS400の1~2割増し程度です。
SS400より少しだけ強度や硬度を上げたい場合、焼ならし素材(≒市販生材)を使用します。
それよりもっと強度や硬度を上げたい場合、加工後に焼入れ・焼戻しをします。
鉄のたわみを利用した「割りメタル」や、応力集中を起こすような鋭角の溝形状を持つ部品にはS45Cの焼入れは適さないです。
入れると破損します。
硬度と粘り(伸び)は相反する要素だからです。
溶接はできません。
焼入れ・焼戻し前提で、カム機構のカム板や各種ガイドにもよく使われます。
(4)SKD11(合金工具鋼)
・引張強さ 1000N/mm2以上(焼入れ・焼戻し)
・耐力 700N/mm2以上(焼入れ・焼戻し)
・硬度 HRC 58~63(=653~772Hv)
(焼入れ・焼戻し)
焼入れ素材のダークホースです。
焼入れをするとS45CやS50Cより硬くなります。
また、これらより焼入れした時の歪みが小さいです。
また、耐摩耗性も高いので、金型によく使われています。
昔、S45Cで精度が必要な長溝部分が焼入れで歪むために、焼入後の最終工程に研削加工を追加する必要がありました。
研削加工の納期が長く、コストもずば抜けて高いので、焼入業者に相談しました。
そこで、金型に使われ、焼入れ後の歪みが少ないこのSKD11を紹介していただきました。
通常S45Cなら、
「粗加工⇒焼入れ・焼戻し⇒研削仕上げ加工」となっていた所、
SKD11なら、
「加工⇒焼入れ・焼戻し」で終了できました。
素材価格はS45Cの約3倍です。
そのため焼入れ無しで使うのはもったいないです。
焼入れ後の研削加工が無くなることで、素材価格が3倍であることを帳消しに出来、トータルコストで安くできました。
精度の必要な焼入れ部品には個人的におすすめ!
(5)SUS304(オーステナイト系ステンレス鋼)
・引張強さ 520N/mm2(固有化熱処理)
・耐力 205N/mm2(固有化熱処理)
・硬度 187HBW=Hv196 (固有化熱処理)
錆びにくいのと耐食性がいいのが最大の特徴で、食品用機械の様に水洗いが必要な機械に使われます。
(身近なものでは台所のシンクに使われています)
また、鉄の様に錆止めの表面処理や塗装が要らないため、部品の納期短縮のために使うこともあります。
また、SUS304は帯磁しないので、磁力を嫌う装置や箇所にも使われます。
錆びにくいが鉄からの「もらい錆び」で錆びることがあります。
(6)SUS440C(マルテンサイト系ステンレス鋼)
・引張強さ 590N/mm2以上/780N/mm2以上
(焼なまし/焼入れ・焼戻し)
・耐力 245N/mm2以上(焼なまし)
・硬度 255HBW=Hv269/HRC56以上=Hv613
(焼なまし/焼入れ・焼戻し)
耐食性はSUS304に劣りますが、焼入れ・焼戻しをすることで、SUS304より硬く、強くなります。
SUS304とは逆に帯磁します。
硬度を上げたい場合のステンレスとして使われることも多いです。
今回は、鉄系素材の選定について、独断と偏見でお伝えしました。
では、また!